夏さ、また。

日々のことを、だらだら書いてるだけです。

私と好きな店員さんと3年間

一目惚れという言葉を、アナタは信じるだろうか。

 

一目惚れ。字の通り、会った瞬間恋に落ちるということである。瞬間的にビビッとくる、少女漫画御用達の、それである。いや、最近は『ベタ展開』と言われ、嫌いから好きに変わっていく物語の方が、世間のウケが良いかもしれない。とにかく、二次元のお話だ。

 

そんなフィクションの王道を、リアルで恋人すらいたことない女が経験した。身の回りの3次元に、はじめて『推し』が出来てしまった。

 

これは、私が店員さんこと『推し』にクソデカ感情を抱えながら、一方的に偲び慕った3年間の話である。

 

 

①出会い

 

大学3年生の私は、クソオタクであった。中学高校時代に二次元の沼に生息し、大学の研究室も学部も女の子が圧倒的に多く、寛容なぬるま湯の中で楽しいオタクライフを謳歌していた。

 

そして地元から遠く離れたとある地方の大学に通っていた私は、一人暮らしという城を手に入れ、家にオタ友を連れ込めば推しについて語り合う生活に勤しんでいた。女である私も、異性に媚びを売るオシャレもメイクも嫌いだった。

 

そんな私に転機が訪れる。ジャニーズとの出会いだ。とうとうリアルな現場という主戦場を手に入れた私は、推しの評判を下げないためにも、こっちを振り向いてもらう為にも、オシャレとメイクという文化に触れ、女として生まれた自分を肯定出来るようになっていた。ようは、自分革命を起こしていた。

 

そこで一つ、大きな問題に直面した。己から、女の子の香りがしないのである。毎日お風呂に入ってるし、シャンプーだってコンディショナーだって可愛いものにした。しかし、大学にいる女の子たちとすれ違った時に香る、爽やかに甘い振り向きたくなるような誘う香りは、全くしなかった。死活問題だった。ライブまでに、理想の女の子に到達できない!

 

ある日、友人と観光に行こうと家を出た。隣県の街の駅に集合だったのだが、友人の知人が急遽倒れたらしく、3時間ほど遅れるという連絡が入った。私はこの街に1人で来たことがなく、そしてもう集合場所に着いてしまっていた。つまり、知らない街で、暇を潰さなければなかった!!!

 

不幸中の幸いだったのが、隣県の街というのはかなり繁栄しており、幸運にも色んな服屋があった。しかし、私はつい最近まで服はGUの女。つまり、オシャレ空間なんて毒ガスのようなものだし、店員さんの一言で挙動不審になるクソメンタルの持ち主なのだ。

 

しかし、3時間あるのだ。オシャレ空間怖い(∩´﹏`∩)なんて言っても、時間は埋められない。私は今女の子の香りに対して強いコンプレックスがある。そして、そのような店に友人と行くのも、気にしているようで当社比かなり恥ずかしい。全ては経験なのだから!勇気を出して、このフロアにあるフレグランスを売ってる店に行ってみることにした。

 

作戦を立てた。まず、敵情視察。そして最短ルートでレジを向かい、買う。単純かつ明確。お店の人に迷惑をかけないように、買う人間であることをアピールしながら行くしかない。私は金を払う人間なので、この空間にいさせてくださいマインドだ!保て!!己の正気!!

 

サマンサを挟んで店内を伺う。何故か男の店員さんしかいない。そして常連客のような、イケてる女と親しげに話してる。怖い。えっ、怖い。市民権があそこに存在していない。キラキラに負ける。そう呟きながら、20分程他の店を覗いたりして時間を潰す。戻ってくると、女の店員さんもいた。店内もかなり混みあっている。これは??行けるのでは??私にみんな興味が無いのでは??

 

目を合わせないように、斜め下を見ながら、特攻。先程逃げている間に口コミで探した、一番人気の商品に迷わず足を進める。嗅ぐ。よし、そこまで甘くない!前評判通りの使いやすそうな香りだ!!狭い店内だが、目の前のレジには人はいない!レジの近くには女の店員さん!!行ける!!!買えるぞ!!!あとは丁寧な客を演じろ!!感謝を顕にした人間を、邪険に扱う奴はいねぇ!!!

 

「商品おあずりしますね」

 

耳に届く低い声。しまった。男の店員さんだ!!さっきの!!遠目でしか見てないけど美女と話していた人だ!!やべぇ!!絶対私みたいな日陰タイプとか(笑)みたいに認識しとるぞ!被害妄想かもしれんが!!てか!!ここ数ヶ月教授以外と異性と話してないな!!わー!!

 

半分パニックである。挙動不審ながら、顔を上げる。目が合う。見上げる。見上げる??

 

見上げたのだ。167cmの女が、人間を見上げたのだ。人を見上げるなんて、何年ぶりだろう。

 

何か話しかけてくれる。口調が優しい。あれ、何年ぶりに男の人と日常会話をしているんだ??一度も年号も戦争の名前も国の名前も出てこない、当たり障りのない日常会話。そして、私も言葉を返している。キャッチボールしている??言葉を?交わしている??

 

挙動不審で分からなくなってしまう。この、心地よい会話を続けたい。話題……話題……そして何故かこの土地でおすすめの飯屋を聞く私。おかしいだろ。迷惑行為はしないあっさりとした客を目指すのではなかったのか。ニコニコと嬉しそうにおすすめを教えてくれる男の店員さん。まさかのメモにまで書いてくれる店員さん。は????

 

慌ててるうちに会計が終わった。商品を受け取ろうと思ったら、持ってくれた。トドメに、丁寧に紙袋に新作の香りを纏わせてくれて。

 

はわわわ言いながら店から遠ざかり、iPhoneのメモ機能を初めて開いた。

その時のメモがこちらである。

 

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その後、合流した友人に頼むから見てくれと遠くから眺めた。私以外の網膜の判断により、これは都合の良い夢ではなく現実ということが判明した。

 

そして、書いてもらったメモと、試しに貰った香水が付いた紙を財布に大切にしまい込んだ。

 

 

一目惚れを、してしまった。

 

 

②2回目

 

人生初の一目惚れ。これは恋か?愛か?なんだかよく分からないが、好ましいと思うし知りたい。アイドルとはまた違う感覚に振り回された私は、とりあえず周りの友人に力説した。隣の県の街にいるから、通りかかったら見てくれと。

 

しかし、事件から数ヶ月。店を覗いてくれる友人は数多にいたが、目撃したものはいなかった。レジェイケ(仮称)(レジェンドイケメンの略)は、その遭遇率の悪さに私たちの中で幻のポケモン、ミュウと呼ばれ始めていた。私も、集団幻覚説を押さざるを得なかった。

 

そんな年を越えた冬のある日、たまたま違う友人と隣の街に行く機会があった。つまり、レジェイケチャンスである。前日、授業中にタンスの中身を脳内でひっくり返し、必死で綺麗に見えるコーディネートを考えた。

 

そして当日。まず午前中に一度通りかかる。いない。トイレ休憩説を信じて少し置いて2回目。いない。

 

接客業。シフトだってあるのだ。駅で前回オススメされたお昼を食べる 。レジェイケのように染み渡る優しさを持ったお味。コラボカフェか何かか?と泣く。午後は遠くに行かねばならなかったので、食後がラストチャンスであった。

 

 

 

~ここから事件当日に残したメモから抜粋します~

 

 

 

 

 

イケメンは実在した。

 

いたーー!!!!

脳内はまじでイケメンの概念しかなかったので、あれこんな素朴そうだったっけ?と思うもすぐに笑顔で瀕死。とりあえず1度通り過ぎる。お腹痛い。心臓痛い。気の動転。ほんとやばい。汗も出てくる。

 
そして挑んだ!!しかし!!直視ができない!!ほんと見れない!!!お姉さん店員さんが何度も話しかけてくれるも匂いの記憶がない!!迷う!!!無理!!!!大学生にはお金が無い!

 

実況してたツイートみたら25分迷ってました。クソな客。その間お兄さんは常連であろうめっちゃ髪の明るい誰が見ても美人のお姉さんと話している!!辛い!!!女としても無理!!!敗北者!!!なかなかレジに行かないし、惨めなのでさりげなく店を後に。

 
某カル〇ィで気が動転したままコーヒー飲んだ。「しんどい」「むりしんどい」しか日本語が言えない。手が震える。

 
トイレに行き深呼吸。友人達にラインをし、手の震えを止まらせ、第2回戦のゴングが鳴る。

 
はい、お兄さんほかの女の人接客してるー!!けどいたー!!レジにいたー!!友人の「チャンスや」の声で突っ込んで後ろに並ぶ。しかし、お兄さんはお客さんを見送るタイプ。このままいくと担当のお姉さんになる。一度また迷うふりをする。お姉さんに話しかけられる。お兄さんレジに戻る。すかさず行く。

 
ここでやっと!!やっと会えた!!!会えた!!!!!!!!

 
背は180cm(推定)、蝶ネクタイ。お目目は大きめ涙袋大きい。かわいい。しんどい。かわいい。てか自分より背が高いのに、話す時は身をかがめて下から覗くようにするのやばい。高身長の上目遣い??は?

 


「お願いしますー」

 

言うよね。そしたら迷ってらしたんですか?言われるからはいーって言うよね。ここで顔面見るよね。辛いよね。こうパニクると考えてること全部漏れ出るのしんどい。

 

覚えてないと思うけど以前お兄さんに接客してもらって、その時オススメされたご飯屋行きましたよ。美味しかったし、今日もいったと伝えるよね。お兄さん喜ぶよね。

 

「おすすめとかするんですけど、本当に言ったとか感想とかあまり聞かないので、嬉しいです!」

 

死ぬよね。死んだ。かわいい。眩しい。

 

今から観光?と聞かれ、どこどこに行くと伝えるとオススメを紙に書き始めた!しんどい!私が会員登録情報書いてたら!正面に並ぶ字クソ汚い私字。震える。この日のために書道習っとけよ。

 

「このおすすめ、甘酒のお店なんですよ~」。可愛すぎか。「お酒好きですか?」好きです!!駅前の美味しい居酒屋聞いたら書いてくれたよ!!可愛いよ!字が!!!

 

友人がここのお店によく来るらしいんですが、お兄さんが最近居ないと言ってましたよー言ったら「一月ほど県外にいまして!」と答えてくれた。レアキャラ扱いですよ、私の大学で。と伝えると「レアキャラ!!そんな!!大体いつもいますよ!!たまたまです!!」かわいい。

 

なんか話しすぎて申し訳なくて「お忙しい中すみません」って言ったら「全然!!むしろ嬉しいです!!」とか!惚れてまう!!

 


「この前お客さんが住んでる県に行きましたよ!」なんで?「野球で!」あっ、○○VS○○ですね!「そうなんです!地元の球団なんです~」と。そして私のリュックにつけてた野球のピンバッジに反応してくれた。今正面にいるよね?まさか、店にいる時から気にかけてくれたんか?好き。

 

あと何故か大泉洋の話題になって、めっちゃ盛り上がった。何話してんの!?!?!?私!?!?アホ!?!?大泉洋ありがとう!!あなたのおかげで会話時間が伸びたよ!!!!

 
おすすめの居酒屋は価格帯も教えてくれた。ネット見て好きなのいってだって。つら。また来ますね。ありがとうございましたっていったら「是非!!!」だって。ギリギリまでお見送り。

 

出て少し歩いたら恥ずかしくて友人なぐったよね。

 

そのあとずっと気分がハイでした。

 

何回も『話しててすみません』とか言っても許してくれる。応援を許してくれる。アイドルやん???

 

また……また買う……新商品の使い方聞いたら『爪とかにぜひ!』と手に取って爪みてくれた……

 

もう、全てが宝物。その後帰りに通りかかったらおったけど直視出来なかったしんどい。いったよ甘酒のお店、ほんとに美味しかった。しんどい。

 

天使かな?彼に関わる全ての人に感謝を。いそうでいないたいぷなんですよ。で、コミュ力カンスト、かわいい系だけど男。声もそこまで低くなく高くなく心地よい。

 

しんどい。

 

~~ここまで当時のメモ~~

 

いや、リア恋すぎませんかね???あと私すっごく詳細残してて気持ち悪いな????あとしんどいって言葉の便利さに溶けてる。

 

 

 

③3回目~握手会大事件~

 

そして最大の事件は大学3年生の2月にやってきた。何回か店の前を通るものの、『話しかける時は商品を買った時』という己の中での鉄の掟を破る訳には行かない私は、極力通りかかって存在を認識するぐらいであった。そんな中、前に買った商品が無くなった私は、隣の街に覚悟を決めて繰り出すのであった。

 

~~ここから当時のメモの抜粋~~

 

 

私服参加可のマ○ナビのイベントのため、最寄り駅に友人と9時に集合予定。しかし私はまさかの友人からの電話で9時にベットで目が覚める(人生初リアルモーニングコール)。

 

慌てて着替えるも隣街の駅を経由するためメイクはした。乙女心死んでない。速着れるニットワンピで外に出るとまさかの大雪。なんとか駅ついて、一時間遅れで電車に乗って、隣街駅到着。バスまで30分ほど時間があったため、手始めにレジェイケ視察へ。

 

しかしいない!そりゃそうだ昼だよ大雪の平日で!!そんなこんなでシャトルバス乗ってマ○ナビで死んだ目をしてきた。もう嫌だ就活無理。18時に隣街駅に到着。

 
レジェイケの店舗に堂々と正面からいって勝てる訳がないので、後方死角から攻め込むとまさかのいた!!!ぶっちゃけいないと思ってたし、疲れたからいなくていいわなんも話すこと考えてねえぞっ!って時にいた!!物欲センサーは存在した。あわてて逃げる。横で友人爆笑。コントみたいだったらしい。

 

自軍を立て直すために、お手洗いに行ってリップ塗ってきたよね。誕生日に貰った人生初のデパコスRMKグロス超がんばれ。死んでる顔面を蘇生させてくれ。

 

そして再び店舗を遠くから見に行くとまさかのいない!!おや!!??慌てて駅ビルに退避。まあさっき後ろ姿だけ見れたからよかったけど、シフト変更か休憩なのか分からないのが悩む。

 

友人「めっちゃ翻弄して焦らしてくるとか丸山くん(自担)かよ」

 

それな。概念自担だわ。

 

ほかの店で時間潰して、20分後にラスト特攻をかけた。見かけたらすぐ行かないといなくなるぜあれは!と決意を新たにいざ行かん。

 

 


そしたらいたっていうね。びびったよね。二度見して友人と入店。それで、少しでもレジで話せたらいいな、店員さん二人いるし話す余裕あるかな?って思った矢先、速攻お兄さんに新商品の匂いを進められる。助けてくれ。新商品ですかねーと私の口が緊張でベラベラと回り始めるのを、何とかぐっと抑え混む。

 

すごい悩んでる振りをしている間、友人がお兄さんとお話してつなぎ止めていてくれた。その中で、どうやら期間限定のフレグランスがあると。友人もそれをオススメしてくれる中、何故か急に(確か……柑橘系の匂いの商品もあったはずでは?)と思い出した。

 

さり気なく聞いてみると、笑顔で「ありますよー」とお兄さん。でも香水系はなかったような……と私が思案している間に、店員さんはおもむろにゆずのボディオイルを手に取っていた。

 

「試されますか?」

 

おおー、手を出してください言われたが手の平を出したらどうやら逆だったらしい。手の甲か!恥ずかしいーっておずおずと出し直したら

 


手を突然掴まれた

 


お兄さん自分の手にオイルつけて両手で私の手を揉んだ

 


!!!???!!!??

 


声も出んかったよね。

 

友人曰く「あの時の有機栽培の顔、女の顔しとると思ったから見ないようにしたよ、ありゃやばい」だからね。ンンンンですよ。ひいいい!?手が大きい!ムッチリしてる!!これは男の人の手!!!混乱です。ちょっと記憶ないよ。

 

お兄さんと会うことを「握手会」と言ってたけど、まじ握手しちゃったよ。結果期間限定品が人気すぎて現品限りだったのでお願いしますって会計へ。いつも来てるんですか?言われたからよく通るんですーって言っといた。嘘はいってない。

 


レジしてる間に話しかけてもらったんだけど、もうあんま覚えてない。お兄さんの出身地は前に聞いていたので、今度そこに旅行に行くんですよーと言ったら、おすすめのお店や気候状況について事細かに教えてくれた。親切かよ。もう、頬が熱い。挙動不審。目を見たら岡田将生だし。黒目が大きい岡田将生、最強。前にお兄さんが教えてくれた居酒屋めっちゃ美味しかったんで、お兄さんの舌を頼りにしてますとかも言っといた。嬉しそうに照れてれた。

 
そう!ここからがレジ事件である!!登録してたお店のアプリを出したらiPadみたいなのに個人情報出るんだろうね。私の名前が出たんでしょうか。「んー、お名前どうやって読むんですか?」と聞かれたので、何かカナ登録に使うのかとお答えしたんですよ。そうしたらニコニコと呼んでくれたんだよ!!!見てれば全く仕事に必要ないの!!はあーーー!!!!恋愛ゲームか!お前私が好きなの知ってんのか!!!ひいいいイケメン怖い!!!で大泉洋の話を少しして、帰りました。

 

その後に居酒屋に行く時も、飲んでる時もハイだった。友人はかわいいおねえさんな店員さんと話せて嬉しかったらしい「手が綺麗と言ったらお姉さん照れてた」「何口説いてんの」みたいなね。テンション高くなりすぎて路面凍結で帰り道だけで3回コケたけど元気です。

 


次の日に書いてるからもう覚えてないこと多いけど。ずっと会えなかったので嬉しかったし、一度見て、いなくなった時の気持ちの乱高下が半端ない。幸せだった!!!また出る時もシュッて香りづけしてくれるし、雨よけの袋に何も言わずに包んでくれるしね。神様かな?大好きだよね。幸せになって欲しい。ほんと楽しかった。

 
要約するとイケメンチャレンジに成功した!!イケメンに手を揉まれた!!!(試供品のオイルをぬって貰っただけ)目を見ておしゃべりできた!!!ねえ!!私!!!今日死んでいいわ!!!!

 

この店員さんを推す気持ち誰にも負けない。お兄さんが店にいるってわかった瞬間お手洗いに逃げ込んでリップ塗り直す衝動に駆らさせるから、ほんとありがとう。めっちゃありがとう。別冊マーガレットのようでした。いい……

 

この関係のいいところは、好きと言っても店員さんは他人だから、共通の知り合いもいないのでこのことが耳に入らないこと。買った後話すので罪悪感が軽減すること。まず隣県だから数ヶ月に1度しか会えないこと。客だから無条件に優しくされること。理想!!発展のない!嫌われない!気づかれない!!認知されない!

 

これが本心だよね。認知されたくないけど愛想は欲しいんだ!!!もうありがとう!!最高の恋愛ゲームだった!!三月になったら就活だし、会えたらいいなーーー!!!

 

 

 ここで当時のメモは途切れてる。文章から動揺がひしひしと伝わるが、当時の私にとっては地下アイドルを推してるような感覚だった。お金を払って会話する。それがとても心地よかったし、商品は最高だし、いいことしかなかったのだ。

 

その後数回、就活終わりにリクルートスーツでお店に行ったりした。その時も気軽に話しかけてくれて、とても嬉しかったことを覚えている。こんな日々が、少なくともこの地を大学卒業を機に離れるまでは続くと思っていた。

 

 

④別れと戦い

 

井伏鱒二は「花に嵐の例えもあるさ。さよならだけが人生だ」ととある漢詩を訳した。奇しくもそれは春のある日。面接の帰りにいつもの駅に立ち寄った私は、一年間通った店が無いことに気づいた。この街は冬が長く、その年は豪雪だった。就活が雪解けとともに忙しくなり、街にいけない日々が続いてた。油断していた。

 

北の国では、雪解けによって忘れたものが出てくることがある。ただそのお店は、冬の間にどこかに行ってしまっていた。

 

私と店員さんを繋ぐものは、レジのカウンターでの会話しかなかった。残しておいたレシートには名前があるが、それだけだ。財布の中では、まだ微かに商品の香りを纏わせた、書いてもらったメモが残っている。

 

また会いたいと思った。お兄さんの手から、商品を買いたいと思った。付き合いたいとか、結婚したいとか、そんな俗っぽい願望は一切なく、ただもう一度会いたいと思った。これでお別れは、流石に運命を呪うしかない。しかし運命は、努力と執念で変えられる。自我を得てから、明確に『会いたい』と思える、初めての身近な異性だった。

 

ここから長い戦いが始まる。まず就活で何回か名古屋に行った。高速バスの時間まで、必死に走って店舗をのぞくも姿は無い。何回も繰り返した。まず全国チェーンなのだから、会える可能性などほとんどないのに、諦められなかった。

 

次に東京に行く。渋谷や新宿など、知らない土地の大きなファッションビルに、夜行バスまでの間にリクスーで駆け回った。そんな生活を数カ月ほど続けたある日、行きついた店舗でさり気なく「前に合った店舗にやさしい店員さんがいて、また会いたいんですよね」と零した。就活も終盤で、もう東京なんて簡単に来れない日々がやってくると分かっていたので、ついつい弱音を吐いてしまった。

 

「あっ、その人なら○○方面にいるかもしれませんね」

 

 コンクリートだらけの街で、初めて掴んだ手がかりだった。

 

秋になって、就職活動も終わり、卒業論文を書き始めてから多忙になった。今までは隣県だったが、東京となると往復新幹線でゲーム機が買える。次の東京に行けたのは、卒業も近くなった2019年の春だった。翌日成田空港に行くために都心に出てきた。そのエリアの店舗を回る、用事を済ます、もう一度回る、夜になる。お兄さんは、いなかった。

 

最後にお兄さんから買った匂いが似合う季節は、刻々と過ぎ去っていく。私は新社会人になっていた。幸運にも毎月ライブや舞台で東京に行く機会があったので、諦められなくていろんな店舗に顔を出す。ネットで知り合った東京在住の友人まで巻き込んで、ごめんね、ちょっといいかな?と足を止める。知らないお店に、知らない人たち。都会の雑踏で、お兄さんだけがいない。

 

最後に会ってから一年と半年がたったある日。ネットの友人から連絡が来た。

 

「推しの店員さん、○○店で見たかもしれない」

 

目星をつけていた地区と、一致した。まだ、諦められない。

 

⑤先週の話

 それから2回ほど東京に行く機会があったが、相変わらず会えずじまいだった。もう伝説のポケモン色違いぐらいのレア度である。店舗を知ってても会えないという、己の悪運に参っていた。お兄さん貯金(定期的に商品購入しようと貯めてたお金)も貯まり、伊勢丹トムフォードの口紅を買った。お兄さんと出会った時と比べて、オンナになったなと懐かしくなった。

 

季節は夏真っ盛り。推しの舞台のために大学の友人と久しぶりに東京に降り立った私は、もう半分諦めていた。まぁ今日は推しのアイドルに会えるからそれだけで天国だし。乗り換えでその土地に立ち寄って、舞台までやることが無かったので開店早々の店舗を覗く。いない。そりゃそうだ。というか、1年半も会ってないから見た目も変わってるかもしれない。いても気づけるわけがない。私とお兄さんが話した時間は、合計でも30分に満たないのだから。

 

お昼に担々麺を食べながら、ちょっと己の健気さに笑いが込み上げた。とんだ執着である。一回の来店で5分。会えた回数は片手で足りる。そんな店員さんにもう一度会いたいからって、用事にかこつけて東京を奔走。東京に住んでたらストーカーである。被害届を出されてもおかしくない。まぁ、私は東京から数時間かかる田舎にいるし、東京も多くて月一しか来れないんだけど。

 

舞台の現場に向かう前に、最後に見ていくことにした。私は、中々会えないお兄さんをアイドルとして認識することで、追いかけてる自分に酔っていたのかもしれない。男性と話すのも、そういう関係になるもの大の苦手だった。追いかけることで、己は「会えない男の人を慕っている」という、市民権が欲しかったのだともう。そう、自嘲気味に回想していた時。

 

いた。

 

いやいた。何も変わっていないが、溢れるお客さんの中にお兄さん。1年半前とまったく変わらないお兄さん。隣で友人が「おるやん」と軽く呟く。よし、他人にも見れてるから幻覚じゃないな?「行って来たら?」待て、こちらは暑さで化粧は溶けてるし口紅引かせてくれ。「私も一緒に行くわ」来るなや!何年待ったと思ってるんじゃ!気持ち決闘やぞ!!世界の命運かかるぐらいの一大だからね!?!?「舞台まであと一時間だから長居できんぞ」知ってるわ!!!!!!!

 

店内に入る。いやもう香りが分からね―――。というか混んでる。めっちゃ混んでる。いやでも話したい。でも色々話したら愛が重くて引かれるな……「○○店にいましたよね?」という軽めのジャブを会話のとっかかりにすればいい。私はあの店舗が無くなって東京に来るたびに、商品が好きで買いに来ている女だ。そんな設定でヒアウィゴー!嘘言ってない!!嘘いてない!!と脳内自問自答が煩くて仕方なかった。

 

前に買った商品を手にとる。確実にだし、ふつうに欲しい。横目でレジを覗く。オーケー今なら行ける。化粧は溶けかかっているが、今日の服は好きなアイドル用だからちゃんと可愛い背伸びしてる。当時持ってた服でもないし、髪はアッシュでなくて黒いけど。化粧品も服装も、当時の趣味とはまるっきり違うから、少しでもクソ喪女ではなく、「ふつうの女」が商品を買いに来てもらえたと認識されたら何よりだ。不快に思われなきゃそれでいい。爪塗り忘れたけど。朝ご飯、水道橋の朝マックだけど。

 

「お願いします」

 

商品をレジに置く。憧れの人が目の前にいる。目を見て話す人だった気がするから、一度ぐらい顔を覗きたい。目があえば一週間ご飯が美味しい。

 

 

「あの…前に会ったことありますか?」

 

ヘッドショット、クリティカル。人生モブ女にこの眩しさはいかんぜよ。てか、なんて言った?は???私未だなんも言ってないぞ。Why???

 

「あの…前に違う店舗で……今はもうないんですけど……」

「ですよね!?ご友人とよくいらしてましたよね!?」

 

認 知 さ れ と る が な !!!!!!!!

 

ここで『Love so sweet』の前奏流れ始めたら、絶対月9だった。断言するね。恋に落ちてたし、モブ女はヒロインに昇格していた。ただし、当時の私はそんなことに頭を割く余裕はない。いや、会ってないし学生だったからそんなにお金使ってなかった。マジでお兄さん接客業のプロか?(※プロです)前世マザー・テレサ?(※違います)

 

動揺している私を置いて、お兄さんは私の来店履歴を見ながら「やっぱり、僕がレジしてますね~」って笑ってた。色白くてかわいい。といいますか、履歴全部お兄さんだぞめっちゃ恥ずかしい。

 

そこから「なんで東京に?」「舞台でー」「今どちらに?」「就職関連でその土地から地元に戻りましてー」と取り留めのない会話をしてた。ちゃんと言語のキャッチボールできてる。偉いぞ私。そして話してる間に店舗さらに混んでるのに、焦らずちゃんと接客してくれるのがありがたい。そういうところ推せる。

 

「舞台楽しんで!また来てくださいね~」

 

行く~~~~~~~~!!!!!!!這ってでも行く~~~~~!!!!

 

舞台に行く女にも優しいとかすごいなお兄さん…てか幻のポケモン実在したわ…と外で待ってた友人と合流したら「甘すぎて見てられんかった」「なんで私の背後でいっつもそういうイベントおこすの?」(有機栽培は大学の卒業式この友人の後ろの席で、昔気になってた男の子と2年ぶりに会話して、記念撮影を成功させた前科があります)と怒られましたが気にしない!!!今私世界で一番幸せな女だし、最も祝福された人類の1人だから!!!!いえい!!!!!

 

SNSのリア垢で呟いたら、友人からおめでとうツイートがめっちゃ届いてた。あと、その後の舞台も神席だった。マジで帰りの新幹線止まって死んで、エンドロール流れないかなってガチで思った。そのぐらい、幸せだった。

 

⑥おわりに

 

いかがだったでしょうか。一万字に及ぶお兄さんレポ。3年にわたる片想いのお話。正直過去のメモとか見返したんですが、本当にオタクって「やばい」「待って」「無理」「しんどい」「生きててくれてありがとう」「幸せになって」って言葉をめっちゃ使いますね。それだけ恋焦がれていたということで、ご容赦ください。

 

あと愛が重くて気持ち悪いなって何回も思ったし、遠くに住んでてよかったなって思いました。近かったら悪化してお縄だ。いや、近かったらここまで好きになってないですね。絶対にプライベートで会えない関係性だからこそ、私は安心してお兄さんを推せたんだと思います。ファンでした。好きでした。

 

書きながら先日購入した商品をつけたんですが、最高でした。好きな店員さんから、自分が綺麗になるための商品を買うという好循環。デメリットが皆無。

 

今、私は地方に住んでいるので次店舗に行くのはいつになるのだろうか。いや、もうこんな最高の最終回を迎えられたのだから、これからは違う店舗で買おうか迷っています。これを超える出来事なんてそうそうないし、まず認知されてたのが恥ずかしい。これからはもっとライトに推していこうと思います。社会人なのだから。

 

皆さんも是非、推しの店員さんを作ってみてください。人生楽しくなる。そして会えるうちに絶対何回も逢いに行くんだよ!!!会えなくなるから!!!!

 

私の2019年の目標は、推し店員さんに会った時の体重に戻すです。気持ちが大学3年生に戻ったんなら、次は身体も戻さなければ!!

 

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↑再会時のメモ

 

 

サカナクションの「忘れられないの」が私から推しに対するイメソンです。あのレジカウンターは、千年に一回ぐらいの日だし永遠にしたかった。それだけ、私の人生の潤いをギュッと詰めた瞬間だった。

 

ありがとう。この香りが似合う、女になりたい。