夏さ、また。

日々のことを、だらだら書いてるだけです。

久しぶり、勝生勇利。

※この記事ではアニメ「ユーリ!!!on ICE」のネタバレを含みます。

※筆者は夢女子で腐女子です。

 

 

 家の近くにスケートリンクがあった。冬の間しかやってなくて、子供の頃は年に一度親に連れて行ってもらっていた。といっても、体幹も運動神経も悪い私は壁から手を放すことができなくて、運動ができる友人たちをぼんやりとみることしかできなかった。

 

  当時好きだった男の子はアイスホッケーを習っていて、一度だけ彼を含めたメンバーで行った時は、氷の上で転んでいる私の眼前で急に止まったりしてみせて、私を煽って楽しんでいるようだった。休憩室にあるインスタント麺とニチレイの自販機に特別感があった。たまに、氷を整えるためにロードローラーみたいな機械が目の前を通った。

 

 みんなモコモコのスキーウェアか、厚手のコートに防水の手袋で臨んでいた。その中でただ一人、私の父親だけがフリース生地のパーカーとニット帽という薄手のスタイルで、颯爽と滑っていた。寡黙で、巨人軍の勝敗ぐらいしか気にしない父親なので、なんでスケートできるんだと尊敬と驚きを感じたことを覚えている。父曰く、家の前の沼が凍ったかららしい。父の実家には夏しか行ったことないので、そんなに寒く雪深い土地で育ったのかと思うのと、よくわからない父のことが知れて嬉しかった。

 

 いろいろな思い出がある。正しくは思い出した。スケートに限らず、沢山のことが芋づる式に、感化されるように。ひとつひとつ、思い出したくなかったから思い出さなかったこと。苦手な感情、後悔。そして忘れたくないのに忘れてしまってたこと。すべてが懐かしい。

 

 先日、ユーリ!!!on ICEを親友の家で一気見した。私は大学生の時に見ていて、親友は初ユーリだった。やぁやぁと何品かご飯をこしらえて、スーパーで買ったお酒に囲まれながら、見るぞ見るぞとネトフリを起動。見たといっても5年前なので、話の展開ぐらいしか覚えてないなぁと酒を飲んでたところ、体の動きが止まった。それは、主人公勝生勇利が、大好きで目標で生きる伝説と呼ばれるロシアの選手、ヴィクトル・ニキフォロフの演技を模倣するシーンだった。

 

 覚えている。私は、この映像に既視感がなくとも。この音楽を覚えている。遺伝子が、脊椎が、鼓膜が、脳が。この曲を覚えている。絶対に忘れちゃいけないと、記憶が覚えてなくても肉体が覚えている。

 

 この不安は確信に変わったのは、勝生勇利が今シーズンを戦うためのフリーの音楽が初めて流れるシーン。繊細で不安げで脆くも透明感のあるピアノのイントロ。背筋が伸びる。さっきの「離れずにそばにいて」の曲よりも、強く確かに覚えている。涙が自然と溢れて、顔を覆わざるをえない。横で親友が「まだ序盤なのだが!?」と驚き、私は「この曲……マジで後半やばいから……」としか言えなかった。

 

 初めて見たとき、私は大学生だった。就活も卒論もまだ未来の話で、友人と部屋に集まって同じように一日で全話見た。最終話で、これはオタクの妄想で汚しちゃいけない。これは、友愛や性愛を超えた、エンタメで消化しちゃいけない愛なんだと、力説しながら深夜に涙したあの日は遠い昔だ。

 

 あの頃とユーリ!!!on ICEは何一つ変わっていない。変わったのは社会人になった私。ただ、学生が社会人になる過程には多くの痛みと犠牲を伴う。辛い記憶を消す代わりに、楽しい記憶にも蓋をした。人とプライベートな話なんてしないから、私のことなんぞ思い出さない。子供の頃のことなんて、昔のテレビの砂嵐のようなフィルターの向こう側にある。

 

 でも、ユーリ!!!on ICEは何も変わらない。話も音楽も変わらない。だからか、昔見た私の感想も、そのとき思い出した記憶も。そのまま2022年にタイムスリップしてきた。肉体が覚えていてくれた、記憶という情報の濁流が私を襲う。救われた気持ちだった。最近は覚えることも思い出すことも難しい、暗い生活を続けていたので、私も思い出せたんだと救われた。

 

  冒頭の思い出は、このとき思い出したものだ。私にも、家族や人と楽しく過ごした過去があった。嬉しかった。私は、物語がなくてはい生きていけなくて、物語に救われる人種だった。懐かしさをありがとう、ユーリ!!!on ICE。

 

 ここからはちょっとオタクな話を。昔はJJとピチットくんが好きだった。2人のグランプリファイナルの演技は胸に迫るものがある。JJはエンターテイナーで王者。19歳の次期キング。我が道を歩いてきた彼も、まだ未成年の子供で。我流を行くオタベックの演技に心が揺らぎ、今までできなかったことができなくなる。それでもJJはJJを全うするために、意地でジャンプに挑戦する。親友はJJの立ち向かう姿にやられていた。余談だが「まさに翼の折れたJJ……」は何回でも笑ってしまう。

 

 ピチットくん!!!!!!(大声)まじでポジティブの権化。確かにスポーツ選手として勝利への意思も感じられるけど、それよりも「タイ人初のスケート選手」という自負が格好いい。私は「僕はタイでアイスショーを開きたいんだ!」に心奪われました。ピチット君……いい子……あとマジアジアの王子様。JJとピチットくんのお陰で明るい作品になったし、たのしいグランプリファイナルだったよ!!

 

 戦いの地がバルセロナだったので、行ったことがある私は無事死亡。クリスが演技の最後に顔を紅潮させて息を乱れさせるので、毎回親友と拍手してた。アニメって結果は決まってるし、何なら見たことあるのに、ずっと2人で「飛べ!!!!」「いけ!!!!勝生勇利!!!!!」「あーーーー」「勝てるーー!!」って応援上映してました。応援したくなっちゃう男。

 

 あと同じぐらいの頻度で「ぎゃーーーー」「モテる男ーーー!!!」ってヴィクトルに叫んでました。恐ろしい男ヴィクトル。スパダリという言葉が存在する前から完璧。成長して凛としていく勝生勇利と対照的に、ヴィクトルは迷ったり悩んだりすることが増えました。段々とうわべのような振る舞いや笑顔が消えて、どんどん肉付いた人間になっていく様子がすきでした。終盤、ユーリのジャンプに一喜一憂する姿が女子高生らしくて可愛らしかった。

 

 今回の一気見で一番好きになった人は勝生勇利さんです。初めて見たときは年上だったのに、気づいたら年下でした。23歳で日本唯一の強化選手でグランプリファイナルにも出れてずっと憧れの人の前で失敗して!?!?つらいつらい。そして大人になってから分かる勝生勇利めっちゃすごい選手じゃないですか。5年間も地元に帰らずスケートだけしてて、女の子には不器用で。それでも練習し続ける。そのひたむきさにヴィクトルもやられたんじゃないかな。

 

 曲を聴いただけでストーリーが組み立てられる感受性。飛べなくても引き付けられるステップシークエンス、終盤に4回転を飛ぶ圧倒的なスタミナ。この三つにヴィクトルとユリオの技術が合わさったら無敵ですね。ショートの最初の顔アップがどんどん色っぽくなっていくのがたまらなかった。演技の時眼鏡外すのとオールバックにするとズルすぎない?急に男らしくなるの困る。

 

 勝生勇利はヴィクトルのことを考えて演技するほどすごくなりますね。ヴィクトルを驚かせたい。ヴィクトルを振り向かせたい。僕をずっと見てて。僕の勝利を僕よりも信じて。滑って一目散にヴィクトルに駆け寄ってたのに、最後のフリーで「ねぇ、戻りたくないよヴィクトル」で胸が張り裂けそうになりました。素直で健気だからこそ、飾り気のない勝生勇利の言葉にときめき悲しみ拳を震わせてました。しんどい。指輪交換してた。しんどい。

 

 終わって欲しくないけど、終わりがあるからこそ、フィクションの関係性はダイヤより輝きます。関係性の強さと互いが一番と思う強い思いに弱いので、大好きな作品でした。思えば海外ドラマSHERLOCK大好きでロンドンぶっ飛んでるので、コロナじゃなければ唐津に飛んでそうでした。いや、絶対行ってた。すごい悔しい。

 

ユーリ!!! on ICE。青春じゃない、プロとして戦う彼らのスポーツものです。性根が腐った人が1人も出てこないので、心が弱った時におすすめします。みんないい子。みんなスケート大好き。みんなひたむきで一所懸命。真っ直ぐな人たちのワンシーズンの己自身と世界との戦いの話です。

 

唐津に行ったら勝生勇利はいるのだろうか。最近まで冬のオリンピックだったからいないかもしれない。でも、いない可能性はゼロじゃない。私は歳をとって変わってしまったけど、変わらない思い出と共に、勝生勇利とユーリ!!! on ICEはあり続ける。

 

久しぶり、勝生勇利。あなたのおかげて、私は明日を少しだけ頑張れる。劇場版待ってます。頼むぜ、MAPPA。みんな見てね。健康にいいぞ。